熱海の土石流事故と線状降水帯、気候変動を考える

はじめに
2021年7月3日に静岡県熱海市で土砂崩れが発生し、120棟余りの住宅が被害を受け、複数の死傷者が出る事故につながりました。
土石流の動画はネットやテレビですぐに拡散し、その衝撃映像に恐怖を感じた人も多いと思います。
まず、今回の事故で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方の生活が一日も早く回復することを願っております。
今回は、この事故をめぐって交わされている様々な議論の記録と、その背景にある点についての改めての注意喚起をしておきます。
事故の振り返り
すでに見たことがある人が多いと思いますが、土石流が流れる瞬間をおさめた動画リンクを張り付けておきます。
今回の事故は静岡県の熱海市。
神奈川県や、海にも隣接する静岡の東端のエリアです。

そこの伊豆山地区で大雨が停滞した結果、土砂崩れが発生し、土石流となって家々を襲いました。
今回、山が崩れた位置から民家が密集するエリアまでは1㎞近くあったということで、単なる土砂崩れだったら被害は発生していなかったはずです。
土砂崩れにとどまらず、土石流にまでなった点が、大きな論点になるわけですが、
今回の事故において、特に議論されているのは「盛り土」・「太陽光発電パネル」と事故の関連性です。
盛り土の問題
今回、土石流の起点となった部分は、盛り土がされていました。
それを聞いて世論が気にするのは、「まさか、これは人災なのではないか?」という点です。
―――以下、引用
熱海市によると、2006年開発業者から市にこの土地を「宅地造成」をしたいと相談がありました。しかし業者は届け出なく樹木を伐採し、搬入した土砂も産業廃棄物であることがわかり指導を受けていたということです。
地元の人「産業廃棄物は入れた。だから市が注意した。住民もなんか臭いぞ。窓開けると色んなにおいが入ってくるということで市に言って。坂になってるんですけど構築物かなんかを作ろうっていう計画があって。それを許可するためには盛り土をしなければならない、それで盛り土をしたんだねと」
その後この土地は別の会社が買い取り熱海市の指導で植林がされましたが、木が育たないまま今回の崩落となりました。
川勝知事「今回の場合、目下のところではありますけれども、盛り土の部分が全部持っていかれたことは極めて重要な、たいへん危険をもたらすような山への手の加え方ということでございまして。ここはしっかりと検証するという決意でおります」
県が2020年に取得したデータと2010年以降に取得したデータを照合したところ、赤い部分に土が加わっていることがわかり、その量は5.4万立方メートルと推定されました。
”盛り土”開発業者 過去には違法伐採や産廃投棄で指導 熱海土石流https://news.yahoo.co.jp/articles/af7cde4ff366eef0a015b7f3638ae3b53d6564f8
―――引用まで
業者が開発をしようと伐採の上で盛り土までしたが、産業廃棄物も含まれるなど問題があり、とん挫した結果、植林をして放置されていた、という状況です。
本来、木が生えていたエリアを伐採し(結果地盤が不安定になり)、
盛り土をして(結果土砂崩れしやすくなり)、
対応が不十分な可能性が見過ごされていた、ということです。
「これは人災なのではないか?」
少なくともその可能性は大いにありえる状況であり、県の調査が待たれます。
太陽光発電を悪とする論調
もう一つ、話題に上がったのが土石流が起きた部分から少し離れたところに設置されていた太陽光発電パネルです。

この太陽光発電パネルの敷設のために木を伐採していたのではないか。
そのせいで山の保水能力が弱まったのではないか。
太陽光発電パネルを伝って水が一方向に集められ、土石流を引き起こしたのではないか。
こういった疑問が飛び交った結果、「太陽光発電パネルが災害を引き起こした」、「そもそも太陽光発電は環境に悪い」、「再生可能エネルギーなんかいらない」といった形で一部で論調が激しくなっていきました。
これを受けて、「メガソーラー犯人説」というハッシュタグがTwitterでも一時トレンドに上がりました。
Twitterの中では、あえて過激なことを言ったり、論点をすり替えたりという人が時折見られますが、ヤフコメは冷静な意見もありつつ原因究明を期待する声が多くみられました。


根本的な原因は線状降水帯
ただしかし、私はこれらの論調を見て大きな疑問を感じました。
Twitterでも、ヤフコメでも、
「人為的な活動の結果、環境が変えられ、今回の災害が引き起こされたのでは?」
という考えの人ばかりであり、
「自然環境も変わったのではないか?」と考える人が全然いないのです。
あえて言うと、今回の災害の原因は盛り土でも太陽光発電パネルでもなく、
「大雨」です。
そして、今回の降雨パターンは、気候変動によって明確に増えている、と気象庁も警鐘を鳴らしている「短時間強雨」と「局所豪雨」です。

要するに、短い時間で、限られた場所、大量の雨が降るということです。
その降り方を発生させたのは、線状降水帯と呼ばれるもの。
線状降水帯というのは
①大雨を引き起こす積乱雲が発生、②風に流される、③同じ場所に新たな積乱雲が発生、④積乱雲が連なって大雨が降るエリアが線のように広がった、一帯を言います。
この言葉は、ここ数年で議論が進んだものであり、2016年時点では専門家の間でも明確な定義がなされていなかったそうです。
にもかかわらず、線状降水帯は重要性が急激に増しており、気象庁も解説ページを作っています。
線状降水帯とは
顕著な大雨に関する情報
線状降水帯は気候変動とともに増える
線状降水帯による大雨災害は近年頻発しており、
15年9月:関東・東北豪雨
17年7月:九州北部豪雨
18年:西日本豪雨
いずれも線状降水帯により引き起こされています。
ここからは明確に言えることではなくなりますが、
日本は気候パターンが変化しており、線状降水帯が起きやすくなっているという可能性はあり得る話です。
気候パターンが変われば降水パターンが変わります。
今まで経験したことのない降水パターンが起きたのであれば、今まで大丈夫だった場所が引き続き大丈夫とは限りません。
今回の災害についても、盛り土や太陽光発電パネルは、昨日今日で突然出てきたことではありません。
それらはあくまでも、起きやすい場所から起きた、というだけであって、今の日本の気候パターンで似たようなことはまだまだ起こりえると思います。
気候変動をリアルに考える
そして世界ではこういった気候パターンが変化した結果起きる災害等を「気候危機」と呼んで気候変動を食い止めようと活動が進展しつつあります。
事故の原因なのでは?と疑惑の目を向けられている太陽光発電パネルも、気候変動対策の一環として導入された再生可能エネルギーです。
そして、気候変動対策は今回のような災害を減らすためにやることです。
もちろん、無暗に山を切り開いて土砂崩れを起こすのなんて言語道断ですが、
今回の災害もきっかけの一つとして、日本全体として気候変動の危機が実現化している可能性をしっかり見つめてもいいのではないかと思います。
再生可能エネルギーのせいで事故が増える、再生可能エネルギーは自然を破壊するから悪だ、という議論ばかりではなく、
「なぜ再生可能エネルギーが必要になったのか」という点にまでつなげて考えることで、何のために気候変動対応をするのかがイメージできるようになるのではないでしょうか。
最後に、今回の災害に関する募金方法を記載したリンクを張っておきます。
イオンを経由した募金方法 → 「熱海土砂災害 緊急支援募金」の実施について
では。