ブロックチェーンを使用したサステナビリティ活動の事例
ブロックチェーン技術とサステナビリティ
2016年ごろから大幅な盛り上げりをみせ、一時はバブルで大きな注目を集めていたビットコイン。
その中核となっている技術はご存じのとおり、ブロックチェーンです。
ブロックチェーンは、分散型台帳技術と呼ばれるもので、データベースの仕組みの一つといえます。
そのブロックチェーン技術ですが、その有用な点は何と言っても記録された情報の信頼性。
分散型であることから、実質的に書き換えなどが不可能であり、高い信頼性が求められる仕組み上で非常に大きな効力を発揮するといわれています。
現在サステナビリティ業界では、情報の可視化と、情報の信頼性担保がますます重要になってきています。
その解決策として、ブロックチェーンを使っている企業の事例を紹介します。
目次
- ブロックチェーン技術とサステナビリティ
- IBM Food Trust platform:ウォルマートとIBMのケース
- ヨーロッパ:CarrefourとNestleのケース
- アジア:アリババとKTのケース
- 日本国内のケース:デジタルグリッド社との提携
- ひとまず まとめ
IBM Food Trust platform:ウォルマートとIBMのケース
世界をまたにかけるIT企業、IBMですが、ブロックチェーンの領域でも存在感を出しています。
2016年に、ウォルマートと共同で、中国の豚肉のトレーサビリティを改善するためのプラットフォームを構築すべく、実証実験プロジェクトを行いました。
食品偽装や、トレーサビリティの欠如、それによって波及的に発生する、サプライチェーンの非効率化や風評被害を未然に防ごうというための活動でした。

豚肉に付けられた追跡コードをブロックチェーン技術を使ったデータベースに保存。
そしてそのコードを読み取ると、従来26時間もかかっていた情報の追跡が、数秒で完了したということです。
これに大きな期待を寄せたIBMは、2018年9月に、IBM Food Trust platformを立ち上げ、世界中の企業に参加を呼びかけました。
サプライチェーンは、1社で成り立つものではない以上、共有プラットフォームが必要であると考えたためです。
IBM Food Trust platformで、ノウハウの共有や、消費者向けの信頼性向上に向けた交流を活発化させることで、ドミノ的に良い効果を拡散させていきたいと考えているということ。
もちろん有料ですが、IBM Food Trust platformを使うことの利点としてはサプライチェーンの効率性、ブランド・トラスト、食品の安全、食品の鮮度、食品偽装、持続可能性、食品廃棄物 などが挙げられるということです。
後ほど触れますが、このIBM Food Trust platformには、フランスの食品・日用品の販売会社であるCarrefour(カルフール)や、日本ではキットカットなどでおなじみのNestle(ネスレ)も参加しています。
しかし、ブロックチェーン技術をサプライチェーンの管理に利用するという点ではウォルマートとの技術がおそらく世界初となります。
参考:https://www.ibm.com/think/jp-ja/business/food-trust/
ヨーロッパ:CarrefourとNestleのケース
お次も同じくIBM Food Trust platformにつながる話になります。
導入した企業はCarrefour(カルフール)とNestle(ネスレ)です。
Carrefour(カルフール)はフランスの大手スーパーマーケット。
アメリカで言ったらウォルマート、イギリスで言ったらセンズベリースやテスコ、日本で言ったらイオンやイトーヨーカドーといったところでしょうか。
Carrefour(カルフール)が最初にブロックチェーン技術を導入したのは2018年の3月でした。

鶏肉の育成、加工、流通プロセスについて、過去に整理・可視化出来ていたものを、ブロックチェーンを使用して信頼性と透明性を担保して一般でも確認できるように改良したというもの。
これは欧州初の食糧業界用ブロックチェーン技術であったとのことです。
参考:http://www.carrefour.com/sites/default/files/cp_carrefour_blockchain_alimentaire_06032018_ven.pdf
一方、キットカットやコーヒーで有名なネスレもサプライチェーンへのブロックチェーン技術の応用に積極的です。
2017年あたりブロックチェーン技術のパイロットを開始しています。
IBM Food Trust Platformを使用し、カルフールと提携してフランス国内のジャガイモのピューレのサプライチェーンの可視化に取り組んでいたということです。

その活動成果は2019年の4月に発表され、一般消費者もマッシュポテトが簡単に作れるパウダーがどこから来たのかを簡単に追えるようになりました。
参考:https://www.nestle.com/media/news/carrefour-consumers-blockchain-mousline-puree-france
参考:https://www.nestle.com/media/pressreleases/allpressreleases/nestle-open-blockchain-pilot
また、2019年11月にはカルフールはネスレとのパートナーシップを発表します。
2017年以降IBM Food Trust Platform の活用を続けていたネスレと、IBM Food Trust Platform の初期メンバーの一社でもあり、2018年にBlockhchainを使ったサプライチェーンシステムをローンチしたカルフールがノウハウの共有などを目的として提携したもの。
IBM Food Trust platformでは、ノウハウの共有や、消費者向けの信頼性向上に向けた交流を活発化させることで、ドミノ的に良い効果を拡散させていきたいと考えており、パートナーシップなども重要視しているようです。
IBM Food Trust platformのメリットは、サプライチェーンの効率性、ブランド・トラスト、食品の安全、食品の鮮度、食品偽装、持続可能性、食品廃棄物 などが挙げられています。
カルフールはネスレとの提携は言うまでもなく業界リーダー同士のパートナーシップであり、今でも、乳児用ミルクなどサプライチェーンと商品の安全性・信頼性がとても重要になる商品に対してはすでに動き始めています。
フランス国内で販売されるものをはじめとして、これからサプライチェーンの可視化はどんどんと進むことになるでしょう。
参考:http://www.carrefour.com/current-news/carrefour-nestle-blockchain-technology-for-food-transparency-with-mousline
参考:https://www.ibm.com/jp-ja/blockchain/solutions/food-trust
アジア:アリババとKTのケース
IBM Food Trust platformは食料品のサプライチェーンに特化したソリューションでした。
もちろん、ブロックチェーンの技術自体はそれ以外にもサプライチェーン全体に活用が可能です。
ブロックチェーンの多様な活用のためには、一つ一つブロックチェーンに対応した環境を構築するのは非常に非効率的。
そのためにも、Blockchain を活用するためのプラットフォームを提供するサービス(PaaS: Platform as a Service) として、BaaS(Blockchain as a Service)というものがいくつかの企業から提供されています。
Amazonは2019年5月1日からAmazon Managed Blockchainと呼ばれる、AWS(Amazon Web Service)でブロックチェーンを使用するためのサービスを開始しました。
参考:https://aws.amazon.com/jp/managed-blockchain/
他にも、Microsoftが自社のクラウドプラットフォームであるMicrosoft Azureで使用するためのAzure Blockchain Serviceというものを2019年5月9日から開始しています。
Amazonとの差は1週間。熾烈な競争ですね。
参考:https://azure.microsoft.com/ja-jp/services/blockchain-service/
ではBaaSはアメリカ企業しかやっていないのか?
というともちろんそんなことはなく、中国のBtoB型Amazonと言われているAliababa(アリババ)が、自社の提供するAlibaba Cloudのサービスの一環としてBaaSを2019年3月18日にリリースしました。
AmazonやMicrosoftよりもむしろ早くリリースしておりますが、実はAlibabaはブロックチェーン技術に関する特許を最も多く出願している企業ということです。
(日々増えていっているということなので、正確な数字や出願数の比較等は割愛します)
しかし、2020年1月時点では、Alibaba Cloud のBaaSを使用した事例は発見できませんでした。
参考:https://jp.alibabacloud.com/notice/baas-20190318?spm=a21mg.8156562.494434.32.1a363912GCs7Sa
Alibabaは言わずもがな、BtoBのE-コマースの企業として成り上がり、今ではアリペイなどの金融事業も大きな柱になっています。
サプライチェーンで透明性が重要になってくるのはBtoBも同じであり、また金融などの数字の世界もブロックチェーンを使用した技術との親和性は高いでしょう。
AmazonもBtoB領域を拡大しようとしたり、金融に手を出したりしていますが、サプライチェーンの可視化やブロックチェーンを活用した金融事業、という意味ではもしかしたらAlibabaの方が有利という見方も出来るかもしれません。
一方中国以外のアジアに目を向けると、韓国がブロックチェーンを使用したプラットフォーム作りに向けて動いています。
2019年の9月20日、韓国最大の通信企業KTが、コンソーシアム型のブロックチェーン実装に向けた特許を出願しました。
これは、2020年に公開予定のブロックチェーン基盤「自己証明型身分証明(SSI)システム」のための技術であると言われています。
平たく言うと、IDや個人情報、企業情報をブロックチェーンを使用したプラットフォームで管理して、自己証明・身分証明などの手続きを簡素化かつ安心化をしようとしているようです。
参加を表明している企業は、テック大手サムスン電子、金融サービスのKEBハナ銀行、ウリィ銀行、コスコム、モバイルキャリアのSKテレコム、KT、LGユープラスなど。
先々としては 大学、病院、保険会社、エンターテイメント施設、リゾート、カントリークラブなどさらなる企業らとの提携を目指すとしています。
Alibaba、Amazon、Microsoft、いずれもクラウドサービスの拡張としてBlockchain as a Serviceを提供しており、クラウドサービスユーザーなら誰でも顧客としています。
そんな中、韓国のKT社はどちらかというと韓国国内限定の効率化に活用していくようです。
参考:https://jp.cointelegraph.com/news/korean-telecom-giant-kt-patent-filing-about-apparatus-for-managing-data-using-block-chain
日本国内のケース:デジタルグリッド社との提携
次は日本国内の事例に目を向けます。
先に言ってしまうと、日本国産でBaaS(Blockchain as a Service)のようなものは出てきていません。
いずれも、特定の領域でのブロックチェーンを使用にとどまっており、その内色々なブロックチェーンプラットフォームが乱立して統合的にならない可能性はありそうです。
日本では、デジタルグリッドという会社から、エネルギー産業向けにブロックチェーンを使用したソリューションが提供されており、いくつかの活用事例が紹介されています。
2019年11月22日、デジタルグリッド社は、「情報通信技術を活用した削減活動の取りまとめ」という活動の一環として、ブロックチェーンを活用した環境価値取引手法を適用すると発表しました。
これに参画を表明したのは、東京ガスグループ(東京ガス・東京ガスエンジニアリングソリューションズ)、東邦ガス、日立製作所。
概要としては、IoTとブロックチェーンを使用した電力データの収集・管理ということです。
まずはデジタルグリッドが開発した電力データなどの計測を行うICT機器「DGC(デジタルグリッド・コントローラ)」を各地の太陽光発電パネル(PV)などの発電側に設置。
そこで計測された自己消費分の発電データなどをブロックチェーンに記録することで人手を介さずに効率的に、かつ安全にデータを管理することが可能になる。というものです。

既存のデータをブロックチェーンを使って管理、というわけではなく、データの収集から新たに始めるという点で野心的な活動とも言えます。
参考:https://www.kankyo-business.jp/news/023574.php
また、イオングループの施設管理の会社であるイオンディライトでは、再生可能エネルギーの価値を追跡できるようにするため2018年3月以降実証実験を行っています。
再生可能エネルギーに適正な価値をつけ、イオン各社・一般家庭の余剰電力、再エネ発電事業者等のクリーンエネルギーを、企業や各家庭に提供していくことを目的としているということです。
これは、環境省主導の「CO2 排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」、「平成 30 年度ブロックチェーン技術を活用した再エネ CO2 削減価値創出モデル事業」というプロジェクトの一環として始まったもの。
ブロックチェーン技術で再エネの「トレーサビリティー」を実証した後の付加価値創造などを考えているとも取れますが、まだ実証実験中ということです。
参考:https://www.kankyo-business.jp/news/020090.php
参考:https://bit.ly/37BrOC4
ひとまず まとめ
詳しい紹介は載せていませんが、ブロックチェーンを活用したサステナビリティ関連の活動は大小さまざま存在しています。
アメリカのブラジル風ステーキハウス「Fogo de Chao」が、ブロックチェーン技術を使って農場から食卓までの過程を、提供する肉の監視ができるシステムを採用していたことが報じられているように、中小企業も取り組んでいますし、
スウェーデンのPaperTale社や、アメリカのBext360社など、スタートアップも色々と出てきています。
活用を試みる団体も、企業だけでなく、WWF等の国際的NGO団体などもいます。
透明性に価値を見出す消費者が圧倒的に少ない日本。
知らないうちに悪いことに加担しているなんてことにならないように、市場が変化してほしいところです。
日本が動かなくても世界は動き続け、大幅に置いていかれたら世界で戦うことなど夢のまた夢です。
実際にウォルマートはすでに自社の葉物野菜の仕入先に対して、2019年9月までにブロックチェーンシステムに参加することを要請しました。
中国も韓国も動いている中ですが、プラットフォーム作りという面では日本は出遅れているかもしれません。
ブロックチェーンが日本経済に与えるインパクトは67兆円で、そのうち約半数の32兆円はサプライチェーンマネジメント領域(以下SCM領域)とも言われています。(経済産業省試算)
参考:https://www.meti.go.jp/press/2016/04/20160428003/20160428003.pdf
参考:https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2019/0221/
安心も信頼を得るのはとても大変ですが、そこもITが助けられるとしたら、社会はもっとスムーズに動くようになります。
ぜひとも前に進んでほしい技術の一つです。
参考:https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2019/0221/