UNGC:イノベーションを通じたSDGSへのブレークスルーフレームワークについて
国連グローバルコンパクトのイノベーションを通じたSDGsへのブレークスルーフレームワーク
国連グローバルコンパクト(United Nations Global Compact)、通称UNGCは2019年11月、イノベーションを通じてSDGsに対するブレークスルーを促進するためのフレームワークを公表しました。

Framework for Breakthrough Impact on the SDGs Through Innovation
ダウンロード用リンク:https://www.unglobalcompact.org/library/5723
(ダウンロードには個人情報の登録が必要です)
このフレームワークは、企業活動におけるイノベーションアイデアの種として、SDGsを使いたいと考えている人をターゲットとした実用的なガイダンスとのこと。
SDGsの達成のためには、まだまだイノベーションが必要であるという観点から作成されたものです。
発行に際し、協力したのがPA Consulting Group と Volans という会社。
PA Consulting Group はイノベーションやテクノロジーに特化したコンサルティング会社で、Volans は英国のシンクタンク兼アドバイザリー企業。
Volans は、サステナビリティの基礎の一つである、トリプルボトムラインの概念を提唱した、ジョン・エルキントン氏が設立者です。
SDGsをイノベーションの種として使う
SDGsとイノベーションと聞いたら、直接的なつながりはあまりピンとこないでしょう。
SDGsは持続的な開発のための目標ですが、その中身は世界が抱えている17個の大きな課題を表しています。そしてその17個の課題には169の個別の指標などが設定されており、内容が分解されています。
ビジネスというものは、現在社会の中に存在する問題点、課題、悩みなどに対して、技術や新たな仕組みによって解決策を提示して、そこに新たな付加価値や、お金を生む流れが発生したときに成り立ちます。
そのため、SDGsのような社会課題を起点として捉えることで、民間企業にSDGs達成をぐっと近づけるような技術開発・ビジネスモデルの開発をしてほしい、というのが世界の流れとして起こりつつあります。
このフレームワークの中でも取り上げられていますが、
言うまでもなく、一般的な企業等を含む民間セクターによる社会貢献はとても大きいものです。
2000年から2015年にかけて、生活における必要最低限の衣食住が担保できない「絶対的貧困:Absolute Poverty」に分類される人たちの割合は世界中で30%から9.6%まで減少しておりますが、その達成において民間セクターの貢献も非常に大きかったことが調査でもわかっています。
一方で、企業にも押し付けられているというわけではなく、実際に事業の大きな機会につながるという調査結果も出ています。
「持続可能な開発のための経済人会議:the Business Commission for Sustainable Development (BCSD)」は、2030年までにSDGが達成されるとした場合、毎年12兆ドル(1,300兆円)ものマーケットが新たに創出されるという試算も出しています。
アフリカ・中国などのエリアごとの新規マーケットの大きさも試算されており、全体感をまとめた情報は今回のフレームワークにも含まれています。
フレームワークの中身
こちらのフレームワークですが、会社としてSDGs の推進・達成への貢献を目指している企業において、研究開発・製品開発・イノベーション担当部門の助けとなるよう、ステップバイステップでのガイドをつけています。
全体の構成としては、
第1章は、どういった人が対象か等の情報をまとめたイントロダクションの章。
第2章は、ブレークスルーイノベーションとは、をまとめた章。
第3章は、SDGsをイノベーションのアイディエーション(アイデア出し)に利用する方法の章
第4章は、現状のイノベーション経路にどうつなげるか・実際に社会にどうインパクトを与えるかの章
最後に第5章では、有用な情報源を取りまとめています。
第2章の中には、
イノベーションを起こすためのマインドセットのまとめや、イノベーションのための支柱的なプロセス、イノベーションのためのビジネスモデル、イノベーションのための破壊的テクノロジーの説明などが含まれており、イノベーションというものを改めて整理するのに有効な情報源がまとまっています。
第3章の中には、
SDGsを設定する際の背景情報となった、グローバルなトレンドのサマリーなどが載っています。
地球環境のメガトレンドや、社会経済的なメガトレンドが総覧されているのは、とても見やすく、わかりやすいです。
また、SDGイノベーションのためのツールも載っており、社内でそれを軸としてワークショップなどを開催するのも良いでしょう。
第4章の中には、
イノベーションを通じて影響を与える際の、影響の与え方や影響の品質指標のようなもの、影響度の測定手法が解説されています。
指標の部分については、意思、野心、統一感、コラボレーション、説明責任、等の指標についてそれぞれ全社視点、プロジェクト視点でどう考えるべきかが解説されており、一方でソーシャルライフサイクル分析などの影響度の測定手法の概要的な解説が含まれています。
上記以外にも、各章では都度ケーススタディも含まれているため、実際の企業事例を通じて理解できるのはわかりやすくて良いでしょう。
今後使われていくか
UNGCという多くの企業が賛同を表明しているグループが発行したフレームワークである以上、一定程度は利用が広まっていくことが見込まれます。
ただ、このフレームワークは一読してもわかる通り、読んだだけで企業の担当者がすぐに実践出来る内容になっているか?というと疑問符が付きます。
マインドセットが書かれていても、それを浸透させるためにはどうすればいいのかがわからない。
特に大企業で、関連当事者が増えた場合にはどんどん難しくなります。
テクノロジーとSDGsの背景にあるような地球・社会の課題の両方に深い知見がある人は非常に少ないです。
その壁を取り壊すためにもコラボレーションなどが必要になりますが、そのためにはリーダーシップ・ビジョンをもった旗振り役も必要になることでしょう。
SDGsの背景から、なぜイノベーションが必要なのか?、イノベーションによってどれくらいの市場が企業にも見込めるか?などの情報がまとまっているため、
企業担当者が経営層を納得させるにはとても良い情報が含まれていると言えるかもしれません。