電気自動車で大もうけのゴーストタウン?

シルバーラッシュを経験したゴーストタウン
カナダのオンタリオ州にコバルトという工業団地が存在します。
100年程前、シルバーラッシュがこの街に訪れていた時代と比較すると、今やその時のにぎわいは残っていません。
トロントの300マイル北に位置するコバルトも、北米 の各地の鉱山町で起きていたこと同様に、1900年代初めは好景気を経験していました。
今ではゴーストタウンと呼ぶ人も出てきてしまうようなコバルトですが、当時のシルバーラッシュの痕跡は残っており、放棄されたハニカム状の採掘トンネルの上に建設された村落は、今では貧困に悩まされています。

かつて銀の採掘で賑わったこの街ですが、近々第二の大好景気が訪れるかもしれないと言われています。
その要因になるのは、銀ではなく、その街の名前にもなった青みがかった灰色の鉱石「コバルト」です。
コバルトを巡る状況と世界での需要と供給
近年、バッテリーの技術開発が進む中で、コバルトが非常に重要な地位を占め始めています。
その用途はバッテリーを使うもの全般にまたがっており、携帯電話、パソコン、そして電気自動車などが含まれます。
そして、電気自動車のように巨大なバッテリーを積む機械が広く製造されたら、その分需要は急激に伸びることになります。
世界銀行の試算によると、電気自動車用バッテリー向けの需要を満たすには、昨年1億2100万トンだったコバルトの生産量を2050年までに約12倍に引き上げる必要があるとのこと。
世界のコバルト供給の半分強を担っているのはアフリカのコンゴであり、全世界の埋蔵量のおよそ半分が同国に集中しています。
またコバルトは、コンゴ、中国、カナダ、ロシア、オーストラリア、ザンビアの生産量上位6カ国で合計で世界の全生産量の80%強を占めており、産地が偏っているレアメタルとしても知られています。
コンゴでは近年内戦再発の懸念が高まっており、原材料の調達に危険を伴う状況になりつつあります。
加えて、コンゴでは水不足が指摘されています。
コバルトの採掘の結果、近隣の河川や地下水を汚染してしまい、水不足や現地民の生活困窮、それに伴う内戦の勃発などの可能性も指摘されています。
引用・参考:ロイター通信 コラム:コンゴ水不足、電気自動車の命取りか
しかし、鉱物の取得は、できれば安全かつ安心な供給源に頼りたい、というのがハイテクメーカーたちの本音。
2016年 人権団体アムネスティ・インターナショナルは、コンゴのコバルト鉱山における児童労働の実態を告発。
コンゴ産コバルトの主力供給先であったEVメーカーのテスラ社は、サプライチェーン上の問題を理由に電池原料を北米から調達する方針を2014年に示しました。
また、iPhoneで知られるアップルも2017年3月、責任ある原材料調達の取り組みを拡大し、従来の紛争鉱物に加えてコバルトも対象にすると発表した。
つまり、紛争の引き金になったり反社会団体の収入源につながりそうな調達先はビジネスパートナーとしないことを意味します。
引用・参考:EV需要急増で高騰、コバルトめぐり競争激化 自動車メーカーは“コンゴの市場支配”懸念
このように、テスラやアップルなどの電気自動車メーカー・ハイテク企業が、紛争のない鉱山地域からコバルトを調達したいと思った場合、言うまでもなく北米に位置する街であるコバルトは最適な供給源と言えるのです。
多目的金属
コバルトから作られたコバルトブルーと呼ばれる青色染料は、何世紀にもわたってガラス、釉薬、セラミックスの色つけで活躍してきましたが、1730年まで正式に金属として認識されていませんでした。
コバルトの語源は、ゴブリンまたは悪を意味するドイツ語のkoboldであり、16世紀の鉱夫がコバルトの製錬中に放出された有毒なヒ素で被害を受けていたことに由来します。
今日、この汎用性の高い金属は、ジェットタービンを作るための磁石や合金、ガン治療のガンマ線源としての放射性物質(コバルト-60)に使われています。 その他にも、塩化コバルトになれば湿度計として使用され、空気の湿気が上昇すると色がスカイブルーからピンクに変わるといった変わった性質も持っています。

需給の謎
ガーディアンによると、世界のリチウムイオン電池市場は、2015年の300億ドルから2024年には750億ドルに増加する見通しです。
この成長の主な要因は、電気自動車(EV)の販売が好調に推移することです。
ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス・プロジェクトは、2040年までに、プラグイン車 つまり電気自動車が世界の自動車貨物の530万台の3分の1を占めることになるとの計算を発表しています。
地球環境にとっては好ましいこのトレンドですが、それによってコバルトの需要が急増した場合、それに関連した犯罪等が発生する可能性が高まります。
我々人間は過去にも、金鉱山、ダイアモンド、石油、天然ガス、レアアースなど資源を巡って争いを起こしています。
コンゴは児童労働や貧困、暴力、腐敗などで広く知られており、資源を巡る争いが起きる可能性は存在します。
世界の技術発展のために必要だとしても、内戦、奪い合い、殺し合いをしていい理由にはなりません。
争いを避けながら、世界の需要に応えるための方法が必要です。
Electric cars will come of age in 2018 | The Economist
コバルト2.0
以上のような理由から、オンタリオ州の街 コバルトはアメリカ国内で安全にコバルトを調達できる場所として注目を集めつつあります。
バンクーバーに本社を置くファースト・コバルト・コーポレーションは、この地域の古い鉱山やその他の潜在的な鉱山候補地を買収し始めています。
2017年の10月には、同社は国際投資家やヘッジファンドの経営陣を現地に連れて行き、コバルトの明るい未来がこの街にかかっている、と焚きつけようとしました。
現時点では、コバルトの埋蔵記録が十分ではなかったため、鉱山の生産はまだ遅れています。
しかし、同社の株価は2017年、90%以上上昇しました。
同様に、ブリティッシュ・コロンビアを拠点とする別の関心を持つ鉱業会社であるCobalt 27 Capital Corp.も、株価がほぼ600%上昇しています。
コバルトで長く苦しんでいた住人にとって、これらの特別収入は、コバルト色の左うちわにつながるかもしれません。
Tina Sartoretto市長がCBC Newsに語ったところによれば、「成り行きを見守る」と述べています。
しかし、もし埋蔵量が豊かだった場合、「コバルトとその地域にとっては良い知らせだろう」と彼女は付け加えました。
Can the electric car industry bring this ghost town back to life?
エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ
1件のコメント